「不妊治療中は食事にも気を配る必要があると聞いたけど、具体的に何を食べればいいのかわからない」という方も多いでしょう。
不妊治療中は、妊活に良いといわれる栄養素を意識しつつも、1日3食の栄養バランスを偏らせないことが大切です。
ここでは、不妊治療中に心がけるべき食事について解説します。
不妊治療における食事の重要性
不妊治療において、食事は健康維持と妊娠しやすい体づくりに重要な役割を果たします。特にホルモンバランスを整える、卵巣・精巣の機能をサポートするためには、栄養バランスの取れた食事が欠かせません。良質なタンパク質やビタミン、ミネラルなどをバランス良く摂取することで、卵子や精子の質を向上させ、妊娠しやすい環境を整えることができます。
一方で、トランス脂肪酸や添加物を多く含む加工食品や糖質の過剰摂取、アルコールはホルモンバランスや生殖機能に悪影響を与える可能性があります。
食事の改善は体全体の健康状態を整えるだけでなく、妊娠率や着床率の向上にもつながります。日々の食事を見直し、妊娠しやすい体を作ることを目指しましょう。
不妊治療中に摂取すべき栄養素
不妊治療中は、食事を通して体の中から健康をサポートすることが大切です。特に、以下の栄養素を意識的に摂ることで、妊娠力を高めることができます。
中見出し:オメガ3脂肪酸
オメガ3脂肪酸は、私たちの体内で作り出すことのできない必須脂肪酸です。不妊治療中の方にとって、オメガ3脂肪酸は特に重要な栄養素と言えるでしょう。
・卵子・精子の質向上:オメガ3脂肪酸は卵子や精子の細胞膜の主要な構成成分です。この栄養素を十分に摂取することで、卵子や精子の質が高まり、受精しやすくなる可能性があります。
・血流改善オメガ3脂肪酸は血液をサラサラにし、血流を改善する効果があります。これにより、子宮への酸素供給を促し、着床をサポートします。
・炎症抑制:オメガ3脂肪酸は慢性的な炎症を軽減し、着床しやすい環境を作ります。
オメガ3脂肪酸を多く含む食品
・魚:鮭、マグロ、イワシ、サバなど、脂の多い魚に多く含まれています。
・えごま油:えごま油は、植物性オメガ3脂肪酸であるα-リノレン酸を豊富に含んでいます。
・亜麻仁油:亜麻仁油も、α-リノレン酸を豊富に含む油です。
・ナッツ類:クルミやチアシードなど、ナッツ類にもオメガ3脂肪酸が含まれています。
これらの食品を積極的に食事に取り入れることで、オメガ3脂肪酸を効率的に摂取することができます。
抗酸化ビタミン
抗酸化ビタミンとは、体の中で発生する「活性酸素」の働きを抑える栄養素です。活性酸素は、ストレスや大気汚染、喫煙などの影響で体内に増え、細胞を傷つけたり老化を進めたりすることがあります。不妊治療の現場では、この活性酸素が卵子や精子の質の低下、着床しにくくなるといった問題につながることが懸念されています。抗酸化ビタミンをしっかり摂ることで、こうしたダメージから体を守り、生殖機能を維持する手助けが期待できます。
抗酸化ビタミンを多く含む食品
・ビタミンC:レモン、オレンジ、イチゴなどの果物、パプリカ、ブロッコリー など
・ビタミンE:アーモンド、くるみなどのナッツ類、オリーブオイル、アボカド など
・β-カロテン:にんじん、かぼちゃ、ほうれん草 など(体内でビタミンAに変わります)
これらの食品を毎日の食事にバランスよく取り入れることで、体の抗酸化力が高まり、妊娠に向けた体づくりがサポートされます。
葉酸
妊娠を希望する方、特に不妊治療中の方にとって、葉酸は非常に重要な栄養素です。葉酸は、細胞の分裂を促し、胎児の神経管が正常に発達するために、不可欠なビタミンB群の一種です。妊娠を希望する女性は少なくとも2ヶ月前から十分な葉酸を摂取するのが理想です。
葉酸が重要な理由
・神経管閉鎖障害の予防:葉酸は、妊娠初期の胎児の神経管が正常に閉鎖されるのを助け、無脳症や脊髄び裂などの神経管閉鎖障害のリスクを大幅に減らすことがわかっています。
・細胞の成長:葉酸は細胞のDNA合成に不可欠であり、胎児の成長に必要な新しい細胞を作り出すために必要です。
葉酸を多く含む食品
・緑葉野菜 :ほうれん草、ブロッコリー、春菊など
・豆類:レンズ豆、大豆、ひよこ豆など
・果物:オレンジ、グレープフルーツ
・強化食品:葉酸が強化されたシリアルやパン
葉酸の摂取量
妊娠を計画している女性は、妊娠する2ヶ月前から、食事に加えて葉酸のサプリメントを摂取することが推奨されています。厚生労働省は、1日400μgの葉酸摂取を推奨しています。
葉酸の注意点
葉酸は熱に弱いため、加熱しすぎると栄養が損なわれます。生食できるものは生で食べる、茹でるよりは蒸し料理や電子レンジ調理がおすすめです。なお、オレンジジュースやグレープフルーツジュースに含まれる成分は、葉酸の吸収を妨げる可能性があります。
葉酸は、妊娠を希望する方にとって欠かせない栄養素です。妊娠を計画している方は、バランスの取れた食事と、必要であればサプリメントの摂取によって、十分な量の葉酸を摂取するようにしましょう。
タンパク質
タンパク質は、私たちの体をつくるために欠かせない栄養素です。特に卵子や精子といった生殖細胞も主にタンパク質からできており、その質を保つためには、日々の食事から十分に摂取することが大切です。
タンパク質が重要な理由
・生殖細胞の形成:卵子や精子はタンパク質を材料にして作られます。タンパク質が不足すると、生殖細胞の数や質に影響が出ることがあります。
・ホルモンの生成:生殖ホルモンの多くもタンパク質から作られており、タンパク質が不足するとホルモンバランスが乱れやすくなり、生殖機能に悪影響を及ぼすことがあります。
細胞の修復と再生:体の細胞は常に新しく生まれ変わっていますが、その過程にもタンパク質が必要です。不足すると細胞の修復がうまくいかず、生殖機能の低下につながる可能性があります。
タンパク質を多く含む食品
肉類・魚・卵・乳製品・大豆製品などがあります。
植物性のタンパク質だけだと、タンパク質の合成に必要な「メチオニン」というアミノ酸が不足しがちです。そのため、動物性と植物性のタンパク質をバランスよく摂ることが大切です。
ビタミンD
ビタミンDは、妊娠を希望する女性にとって非常に重要な栄養素です。不妊治療中に十分なビタミンDを摂ることで、妊娠率や着床率を高める効果が期待されています。
ビタミンDが重要な理由
・妊娠率・着床率の向上:ビタミンDは、妊娠率や着床率の向上に関連していることが複数の研究で示されています。
・免疫力の改善:自己免疫の働きを整えることで、着床しやすくなる効果が期待できます。
・流産リスクの低下: ビタミンDの不足は、習慣流産や妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群などのリスクを高める可能性が指摘されています。
・胚の質向上:ビタミンDが十分だと、質のいい胚ができやすくなります。
ただし、これらの効果は個人の体質や治療法によって異なるため、必ず医師や栄養士にご相談ください。
ビタミンDの摂取方法
・食事:サケやマグロ、卵、きのこ類に多く含まれます。
・サプリメント:食事だけでは不足しがちな場合は、医師と相談してサプリメントを利用しましょう。
・日光浴:紫外線に当たることで、体内でビタミンDが合成されます。しかし、日焼けには注意が必要です。
・血液検査:ビタミンDの血中濃度を測ることで、不足しているかどうかを調べることができます。(保険診療との兼ね合いで検査できないこともあります。)
亜鉛
亜鉛は、生殖機能の維持に欠かせない重要なミネラルです。ホルモンの働きや生殖細胞(卵子・精子)の生成に関係しています。
亜鉛が重要な理由
男性の場合
・精子生成の促進:亜鉛は、精子を作る上で重要な役割を果たすホルモンであるテストステロンの生成を促し、精子量や運動率の向上に貢献します。
・前立腺の健康維持:前立腺の機能をサポートし、生殖器系の健康維持に役立ちます。
・DNAの修復:細胞分裂に必要なDNAの修復を助け、健全な精子の生成を促します。
女性の場合
・卵巣機能の維持:卵巣の正常な働きをサポートし、排卵をスムーズにします。
・抗酸化作用::活性酸素から体を守り、卵子の老化を抑制します。
亜鉛の吸収を効率よく行うためには
・肉や魚、ナッツ類に豊富に含まれており、ビタミンCやクエン酸と一緒に摂ると吸収率が高まります
・吸収を妨げる食品に注意:コーヒーや緑茶に含まれるタンニンや、豆類に含まれるフィチン酸は亜鉛の吸収を妨げるため、取りすぎに注意しましょう。
亜鉛の不足が疑われる症状・免疫の低下
・味覚障害
・精子や卵子の質の低下
鉄
鉄は、体内の酸素を運搬するヘモグロビンを構成する重要なミネラルです。不妊治療中の方にとっては、特に以下の点で重要です。
鉄が重要な理由
- 着床をサポート:鉄分が不足すると、子宮内膜が薄くなり、受精卵が着床しにくくなる可能性があります。
- 胎児の発育をサポート:妊娠中は、胎児の成長に必要な酸素を運ぶためにより多くの鉄分が必要となるため、鉄分の摂取が重要です。
- エネルギー代謝を助ける:鉄は体内のエネルギー産生にも関与しており、不足すると疲れやすくなります。
鉄の効果的な摂取方法
- ヘム鉄:肉や魚に含まれており、体に吸収されやすい。
- 非ヘム鉄:野菜や豆類に含まれ、吸収率が低いため、ビタミンCと一緒に摂ることで吸収が高まります。
吸収を妨げる食品に注意
コーヒーや紅茶に含まれるタンニンは鉄の吸収を妨げるため、食後に飲むのを避けましょう。
鉄不足が疑われる場合は、医師や栄養士にご相談ください。貧血検査を行い、必要であれば鉄剤の処方を受けることができます。
不妊治療中に控えた方がよい食事
不妊治療中は、積極的に摂りたい栄養素がある一方で、避けた方が良い食品も存在します。
以下に、不妊治療中に注意したい食品と、その理由についてご紹介します。妊娠中にこれらの食品を摂取すると、胎児の成長に悪影響を与えたり、胎児の器官形成上問題となる可能性があります。また、一部の食品は高血圧や糖尿病などの基礎疾患のリスクを高め、不妊の原因となる可能性があります。
トランス脂肪酸
マーガリンやショートニングなどに多く含まれるトランス脂肪酸は、ホルモンバランスを乱し、不妊の原因となる可能性があります。
アルコール
アルコールは生殖機能を低下させ、胎児に悪影響を与える可能性があるため、妊娠を希望する場合は減らしましょう。なお、妊娠後は禁酒となります。
生肉・生魚
トキソプラズマやリステリア菌などの食中毒のリスクがあるため、加熱が不十分な生肉や生魚は避けるべきです。
過剰な糖質
不妊治療中、甘いものを多量摂取すると、卵の成長を阻害したり、耐糖能異常を招いたりする可能性があります。また、太りすぎが排卵障害を招き、不妊につながる場合もあります。
甘いものを多量摂取すると、体内でインシュリンというホルモンが大量に出ます。その間は卵を育てる女性ホルモンが分泌されにくくなり、卵の成長を阻害する可能性があります。また、エネルギーにならなかった分を脂肪として体に溜めてしまうため、肥満につながる可能性もあります。
過剰なビタミンA
レバーやウナギなどに多く含まれるビタミンAは、過剰摂取すると胎児の奇形につながる可能性があります。
- 大見出し不妊治療中の食事で知っておきたい「酸化と抗酸化」について
私たちの体では、酸素を利用する過程で「活性酸素」と呼ばれる物質が生まれます。活性酸素には、細菌やウイルスを退治する働きがある一方、過剰に増えると体の細胞を傷つけることがあり、老化やさまざまな病気の原因とされることもあります。
不妊治療の観点からは、活性酸素の増加が卵子や精子の質の低下と関係している可能性があると考えられています。そのため、できるだけ体内の酸化ストレスを減らすことが望ましいとされています。
酸化を促す可能性のある食品
- 加工食品:酸化した油や食品添加物が含まれていることがあります
- トランス脂肪酸を含む食品:マーガリン、ショートニングなどに含まれる油脂
- 揚げ物や焦げた食品:焦げ付きには体に負担となる物質が含まれる可能性があります
- 糖分の多い食品:甘いお菓子や清涼飲料のとりすぎには注意が必要です
※なお、これらの食品を絶対に避けるべきということではなく、とりすぎを控えることが大切です。
抗酸化作用のある食品(おすすめの食材)
- 緑黄色野菜:ビタミンC・E、β-カロテンなどを多く含みます(例:ほうれん草、にんじん)
- 果物:ポリフェノールやビタミンCを含むもの(例:いちご、ブルーベリー、みかん)
- 豆類:大豆製品にはイソフラボンが含まれます
- 魚介類:DHA・EPAなどの良質な脂質を含む青魚など
- ナッツ類:ビタミンEやポリフェノールが豊富(例:アーモンド、くるみ)
食事のポイント
- 栄養バランスの良い食事を心がけましょう
- 加工食品はほどほどにし、自然な食品を取り入れましょう
- 抗酸化作用のある食材を積極的に取り入れましょう
- 食べすぎず、腹八分目を目安に
- 水分補給も忘れずに(ただし、甘い飲み物は控えめに)
活性酸素の働きや酸化は、不妊に限らず健康全般に影響を与えるとされるテーマです。毎日の食生活を少し見直すことが、妊娠に向けた体づくりだけでなく、将来の健康にもつながります。
不妊治療中に意識すべき体重(BMI)
不妊治療を行う場合、BMI(肥満度指数)は妊娠しやすさや不妊のリスクに影響します。
BMI | 分類 |
18.5以下 | 低体重 |
18.5~25未満 | 標準 |
25~30未満 | 過体重 |
30以上 | 肥満 |
妊娠を希望する女性の適正なBMIは、一般的に21~23くらいと言われています。女性の過体重や肥満は、卵母細胞の数と量の減少や不規則な排卵、無月経につながる可能性があります。BMIが30以上になると不妊のリスクが2倍になり、妊娠後も胎児や母体に起こるリスクが高くなります。
BMI | 関連する不妊症や妊娠率、妊娠後のリスク |
24~25 | 不妊症の率が1.5倍となります |
30以上 | 不妊のリスクが2倍以上、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候などのリスクが高くなります |
18.5~25.0 | 妊娠しやすい体づくりのために、適正範囲内(21~23くらい)におさめましょう |
18.5未満 | 低体重の妊婦さんに対しては、妊娠中の体重増加量指導の目安が12〜15㎏となります |
肥満のある女性の場合、体外受精の採卵を遅らせる必要はないものの、不妊治療開始時に体重指導が推奨されます。
不妊治療中の食事に関するよくある質問
Q.食事で補えない栄養はサプリメントに頼っても大丈夫ですか?
サプリメントは補助的な役割を果たします。食事からの栄養摂取が基本となるため、まずはバランスのとれた食事を心掛けましょう。
その上で不足しがちな栄養をサプリメントで補う形が理想ですが、現代人の食事ではなかなか十分な量が取れない栄養もあります。その代表が葉酸です。サプリメントも上手に取り入れることをおすすめしています。
Q.お酒は飲んでも大丈夫ですか?
妊活中のお酒については、控えることが推奨されます。
妊娠したら、アルコールは胎児への悪影響が懸念されるため、禁酒する必要があります。どうしても飲みたい場合は、妊娠の可能性がない時期に、適度な量を飲んでください。
Q.カフェインは摂取しても大丈夫ですか?
過剰に摂取しなければ、カフェインが妊娠に大きな影響を与えることは少ないとされています。
Q.ルイボスティーが妊活に良いと聞いたのですが本当ですか?
ルイボスティーには抗酸化作用があり、妊活をサポートしてくれる可能性があります。カフェインを避けながら、健康を維持するために飲むのは良い選択肢です。
ただし、過信せずに他の生活習慣(食事、運動、ストレス管理など)と併せて考えることが重要です。
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