不妊治療を検討するにあたって、「痛いと聞いたけど、大丈夫かな?」と不安に思っている方もいるでしょう。
不妊治療は、内容によってはどうしても痛みが避けられない場合があります。しかし事前に痛みが不安な旨を伝えておけば、対策してもらうことも可能です。
ここでは、不妊治療の痛みについて解説します。
不妊治療は痛いのか?
不妊治療には、タイミング指導(タイミング法)、人工授精(IUI)、体外受精(IVF)などのステップがあり、それぞれの段階で必要な検査や治療では、どうしても痛みを伴うことがあります。痛みの感じ方は人それぞれで、個人差はありますが、痛みを我慢し不安や恐怖心を抱いたままではストレスも大きくなり、不妊治療がとても辛いものになってしまいます。
どのタイミングでどんな痛みが生じる可能性があるのかなど、事前に知っておくことも大切です。知らないことによる痛みに対する恐怖心で、痛みが増すこともありうるからです。
痛みを完全になくすことは難しいですが、患者様が痛みに対する不安を解消し、痛みが少しでも軽減するよう対処させていただきます。少しでも不安に感じる場合は気軽に相談していただき、ご自身に合った方法を選ぶことが大切です。
不妊治療で痛いと感じるタイミング
一般的に、以下のタイミングで痛いと感じる人が多いといわれています。
- 採卵
- 子宮卵管造影検査
- 経腟超音波検査
- 各種注射
- OHSS(卵巣過剰刺激症候群)が生じたとき
不妊治療における採卵はどれくらい痛い?
採卵術では、医師が経腟超音波(エコー)で位置を確認しながら、腟から採卵用の細い針を刺して、卵巣にある卵子を卵胞液とともに吸引して回収します。基本的には採卵時の痛みは強烈なものではなく、麻酔なしでも気にならない痛みや、耐えられる程度の痛みであるとされています。
しかし、針を刺すわけですから、痛みの感じ方は人それぞれです。特に発育した卵胞の数が多い場合は針を刺す回数が多くなり、痛みが強くなることがあります。
また、以下に該当する方は、エコープローべを腟壁に押し付ける痛みを感じることもあります。
- 子宮内膜症の方
- 過去に手術をしている方
- 炎症の影響で卵巣に癒着がある方
- 卵巣が腟壁から離れた位置にある方
痛みを抑えるために麻酔をすることもあります。なお、当院の麻酔には吸入麻酔と静脈麻酔があります。
吸入麻酔ではぼんやりと意識はあり、針による痛みは緩和されますが、エコープローべで腟壁を圧迫するときに痛いことがあります。静脈麻酔は眠っている間に採卵が完了しますので、採卵時の記憶は残らず痛くないことがほとんどです。
採卵後、非常に稀ですが、採卵時に針を刺した膣壁や卵巣からの出血が止まらず、腹腔内に血液がたまって痛みが起こる可能性があります。
また採卵の痛みを和らげるために、痛み止めの座薬を使用することがあります。
採卵後は通常通りお過ごしいただいて問題ありませんが、痛みが気になる方には鎮痛剤などを服用していただきます。なお採卵後は、激しい運動や夫婦生活は避けましょう。
不妊治療における子宮卵管造影検査はどれくらい痛い?
卵管造影検査とは、不妊の一因である卵管の詰まりや狭窄の有無、子宮の形を調べるために、子宮口から造影剤を注入してX線透視を行う検査です。皆さん心配されますが、検査後多くの方は心配したほどの痛みはなかったと仰ります。
卵管造影検査では、子宮にチューブを挿入するときや造影剤を注入していくときに、多少の痛みを感じることがあります。
子宮へのチューブの挿入で痛みを感じるのは、狭い子宮口をチューブが通過するためです。
また造影剤を子宮口より注入する際に、子宮や卵管が広げられるため生理痛のような鈍痛を感じることがあります。特に卵管が閉塞している場合は、造影剤注入によって卵管内に圧力がかかるため、痛みを感じやすいです。
一般的に卵管造影検査の痛みは生理痛と似たようなもので、麻酔が必要なものではありません。緊張しすぎず、ゆったりした気分で臨みましょう。
当院では、造影剤をゆっくり優しく注入することで、検査の痛みを最小限にするよう心がけております。
不妊治療における経腟超音波検査はどれくらい痛い?
子宮や卵巣の様子を詳細に観察する経腟超音波検査は、通常痛みを伴わない検査ですが、多少の不快感は感じることがあります。経腟超音波検査では、プローブと呼ばれる親指ほどの太さの細長い機械を挿入します。体型や膣の構造に応じて、プローブの挿入角度や深さを調整しますが、人によっては圧迫感や違和感を感じることがあります。元々、夫婦生活が苦手な方は少し苦痛かも知れません。
検査時間は長くても数分程のため、通常は痛みではなく不快感の範囲です。骨盤内に癒着や炎症がある方、特に子宮内膜症を合併されている方は痛いこともありますので、注意して行います。
不妊治療における各種注射はどれくらい痛い?
排卵誘発剤などの注射を行う際に、痛みを感じることがあります。
注射の種類や薬液の性質、注射方法などによって痛みを感じる程度が異なります。
排卵誘発剤の注射には筋肉注射と皮下注射があり、特に筋肉注射は痛みを感じる方が多い注射です。筋肉に力が入っていると、その分痛みを感じやすくなります。
筋肉注射の痛みを軽減するには、注射前後にマッサージを行う方法もあります。注射後のマッサージには、薬剤の吸収を促進させ痛みを緩和させる効果があります。
また皮下注射は自己注射(ご自身での注射)を行うこともあります。現在使用されているペンタイプの注射は針がとても細く短いので、痛みを感じることはほとんどありません。
バイアルやアンプル、シリンジタイプの注射はペンタイプに比べるとやや長くて太いですが、採血や点滴などの針とは全く違います。コツをつかみ薬剤をゆっくり注入する、脂肪の厚い部分に注射する、注射の箇所を毎回変えるといった工夫で痛みを軽減できることもあります。実際に注射が必要になった場合には、スタッフからいつでも何度でも、詳しく説明しますのでご安心ください。
不妊治療中のOHSS(卵巣過剰刺激症候群)はどれくらい痛い?
不妊治療における排卵誘発剤で卵巣が過剰に刺激されることによってふくれ上がり、お腹や胸に水がたまるなどの症状が起こることを卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と呼びます。 重症例では、腎不全や血栓症などさまざまな合併症を引き起こすことがあります。
症状としては、お腹に水(腹水)が溜まることにより膨満感や圧迫感が生じ、鋭い腹痛や鈍い痛みが感じられることがあります。同時に、血管の中では脱水が進むとされています。重症になると、大量の腹水が溜まったり、胸にまで水(胸水)が溜まって呼吸困難が生じることもあります。
OHSSは、排卵後2〜3日から数日で発症します。
軽症の場合、発症後数日間は不快な症状を我慢しながら体重や尿量の変化に気をつけて過ごす必要がありますが、月経が来るとともに症状は軽快することがほとんどです。
重症の場合には、体の水分の管理が必要となることがあります。症状の緩和のために腹水を抜き再還流する、他方で脱水管理のために点滴を行うなど、入院治療が必要になることがあります。
妊娠成立時はどれくらい痛い?
着床痛という言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これは、受精卵が子宮内膜に着床するタイミングで感じるとされる、下腹部の痛みのことを指します。「チクチクした」「ピリピリした」など、月経前症状とは違う感覚として語られることがあります。
しかし実は、この“着床痛”という現象は、医学的には明確に定義されておらず、教科書や医学文献にも記載がほとんどありません。実際の医療現場でも、「この痛みは着床によるもの」と診断できるケースはあまりありません。ホルモン変動による体調のゆらぎや心理的な影響が、痛みや違和感として現れる可能性があると考えられます。
そのため、「痛みがあったから妊娠している」「痛みがないから着床していない」といった判断はあまり意味がないばかりか、かえって不安や期待を増幅させてしまうことにもつながります。もちろん、妊娠を強く望んでいる方は、ちょっとした体の変化にも敏感になりやすいものです。そうした感覚を否定するものではありませんが、“着床痛”という言葉が一人歩きしすぎないよう、冷静に体を見つめることも大切です。
不妊治療の痛みを少しでも軽減するには
不妊治療は身体的、精神的に負担が大きいことが多いですが、痛みや不快感を軽減するために、できることはあります。リラックスすることや痛み止めを服用すること、医師や看護師、カウンセラーとコミュニケーションを取ることも大切です。痛みを軽減する方法は、以下のとおりです。
リラックス法を取り入れる
緊張すると筋肉が硬くなり、痛みを感じやすくなります。深呼吸をしたり、好きな音楽を聴いたりして、リラックスすることを心がけましょう。ヨガやアロマテラピーなどでもリラックス効果が期待できます。ご自身がリラックスできる方法を見つけて、不安やストレスを減らしましょう。穏やかに推し活に没頭するのも良いかも知れません。
適切な鎮痛剤の服用
痛みが心配な場合は、事前に医師に相談して、痛み止めを処方してもらうこともできます。多くの場合、市販の鎮痛剤でも効果的です。
温熱療法
生理痛と同様に、温めることで痛みを和らげることができます。腹部や腰部に温湿布やカイロを使用することで、血流が改善され筋肉の緊張をほぐし痛みが軽減することがあります。
食事と水分補給
不妊治療中は身体がストレスを感じやすく、栄養不足が痛みを悪化させることもありま す。バランスの取れた食事と十分な水分をとることが大切です。
心理的サポート
不妊治療は精神的にも辛いことが多いため、精神的なサポートが重要です。不安な点は、遠慮なく医師やその他のスタッフに相談しましょう。
医師との信頼関係を築くことは、安心して治療を受ける上で大切です。疑問点や不安なことがあれば、遠慮なく質問しましょう。
当院では、看護師、不妊カウンセラーによるカウンセリングも実施しております。
痛みに対する恐怖心は「わからない」ことによって大きくなることがあります。
「わからない」をなくし、痛みへの恐怖心を軽くしてから治療にお進みください。