反復着床不全とは
反復着床不全とは、良好な受精卵(胚)を複数回移植しても着床しない状態を言います。
一般的に40歳未満の女性が体外受精で良好な胚を4回以上移植した場合、80%が妊娠するといわれています。
よって、良好な胚を4個以上、かつ3回以上胚移植しても妊娠しない場合、反復着床不全(RIF)といいます。
反復着床不全の原因には受精卵の問題・子宮内環境の問題・免疫異常の問題などが考えられます。
反復着床不全の原因1:受精卵(胚)の問題
胚の問題は主に染色体の数的異常が原因とされています。
胚そのものに染色体異常があると着床・妊娠は困難で、妊娠したとしても高確率で流産が起こり、なかなか出産にまで至りません。
しかし体外受精では胚の評価を形態で判断しているため、染色体の異常があるかを判断することはできません。
我が国では体外受精を受ける女性の年齢が高齢化していることもあり、胚の染色体が正常でないためになかなか妊娠しない方や流産する方もいらっしゃいます。また若年であってもカップルの染色体に異常があると、着床不全の原因になり問題とされています。
検査
着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)を行います。これは、胚の染色体の数の異常を調べる検査です。
体外受精を行い、胚盤胞まで成長した胚から数個の細胞を採取します。採取した細胞を検査機関へ提出し染色体数を検査します。
胚盤胞の形態の状態によっては細胞を採取できず、検査を行えない場合もあります。
また採取した細胞の状態によっては、検査結果が出ないこともあります。
ただし検査ができなかった胚盤胞が異常であるということではありません。
また、検査結果が正常であっても、妊娠を100%保証するものではありません。一般の妊娠と同様に流産が起こる可能性はあります。
治療・流れ
PGT-Aは以下の条件に当てはまるカップルのみ実施することができます。
- 胚移植を行い2回以上臨床的妊娠(子宮内に胎嚢が見えること)が成立していない
- 流産または死産を2回以上経験している
PGT-Aは以下のような流れで進みます。
- 事前に申し出いただき、PGT-Aに関する動画の閲覧などを実施していただきます。
- 同意書やチェックシートなどを提出していただき問題なければ体外受精を行い、その後に採卵・胚盤胞培養へと進みます。
- 胚盤胞まで培養後、細胞を採取し検査に提出します。生検後の胚は結果が出るまで凍結保存を行います。結果が出るまでに3週間ほどかかります。
- 結果が出たら医師から結果の説明を行います。染色体正常の移植可能胚があったら、移植を行うスケジュールを計画していきます。
移植可能胚が得られなかった場合は採卵から再度実施となります。
検査・治療にかかる費用
PGT-A検査は自費診療となります。
検査のみでなく、これに関わる体外受精の治療全てが自費となります。
項目 | 費用 |
卵巣刺激 | 30,000円〜90,000円 *刺激法により異なる |
採卵〜全胚凍結 | 260,000〜420,000円 |
PGT-A | 90,000円/個 |
反復着床不全の原因2:子宮側の問題
子宮側として考えられるのは、子宮の形の異常・子宮の器質的異常・子宮内環境の異常です。
受精卵が着床し育っていくためには、着床に適した子宮内膜や子宮内環境が必要です。
子宮・付属器の器質的異常(子宮粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症、子宮腺筋症)がある場合、子宮内膜への着床の妨げになっている可能性があります。また、子宮形態異常(中隔子宮など)がある場合も、子宮内に血流障害がおき着床の妨げになる場合があります。
加えて子宮内膜に炎症が起こっている場合や、子宮内の環境が乱れている場合も着床不全を起こす可能性があると考えられています。
検査・治療
検査項目 | 内容・治療 |
子宮鏡(一部、保険適用で可) | 子宮の形態や子宮内の状態を確認し、着床を妨げる原因が隠れていないかを確認する検査です。 <検査・方法>子宮に直接カメラを入れ子宮内の炎症の有無やポリープの有無、子宮の形態などを確認します。ポリープが確認できた場合は切除など状況に応じた方法で手術を行います。 |
子宮内フローラ検査※先進医療 | 子宮内フローラが乱れ、子宮内の善玉菌が少なくなり細菌が増えると、着床や妊娠の継続に影響があると考えられています。子宮内フローラ検査は、子宮内の環境が乱れていないかを確認するための検査です。 <検査・対策>子宮内膜液を採取し、子宮内の菌環境を調べます。子宮内フローラのバランスが乱れていた場合には、菌に合わせた抗生物質で治療を行います。善玉菌である乳酸菌ラクトバチルスの割合が少ない場合には、菌を増やす目的でプロバイオティクス製剤などを使用し改善を目指していきます。 |
子宮内膜受容能検査(ERA)※先進医療 | 着床において子宮の内膜が胚を受け入れるのに最適な時期があり、その時期がズレている場合は着床することができないと考えられています。子宮内膜受容能検査(ERA)は、胚移植の時期が適切であるかを確認するための検査です。 <検査・対策>通常はホルモン補充周期を経て移植のタイミングで子宮内膜を採取します。遺伝子の発現パターンから、あなたの子宮内膜が着床に適した時期かを評価します。 |
子宮内膜マイクロバイオーム検査(EMMA)※先進医療 | 子宮内の細菌叢が胚移植に最適な環境であるかどうかを確認する検査です。 <検査・対策>子宮内膜の組織を採取し、子宮内の細菌の割合を調べ、ラクトバチルスが90%以上あるかどうかを確認します。結果に応じて細菌バランスを整えるための最適な治療を提案します。 |
感染性慢性子宮内膜炎検査(ALICE)※先進医療 | 慢性子宮内膜炎の原因となりうる細菌を検出する検査です。 <検査・対策>子宮内膜の組織を採取し、子宮内に慢性子宮内膜炎に関連する10種類の病原菌がいるかどうかを調べます。結果に応じて適切な抗生剤と治療法を提案します。 |
慢性子宮内膜炎検査(CE)※自費 | 慢性子宮内膜炎の有無を確認するための検査です。子宮内膜の一部を採取し、病理学的に炎症が起こっているかどうか、炎症の指標となる「形質細胞」という特定の細胞が存在しているかを確認します。 <検査・検査>病理組織検査の一環として、形質細胞の存在をより正確に確認するための免疫染色を行います。形質細胞は、慢性子宮内膜炎の特徴的な細胞で、通常の顕微鏡検査だけでは見つけにくいことがあります。この染色法を用いることで、炎症の有無をより確実に判断できます。 |
銅・亜鉛※自費 | 銅は体内での濃度が高いと着床を妨害する働きがあるといわれています。 <検査・対策>検査は空腹時に採血を行います。銅濃度が高い場合、亜鉛のサプリを内服し改善できるといわれています。 |
検査にかかる費用
検査は自費となります。
*子宮内フローラ検査・ERA/EMMA/ALICE検査は先進医療検査です。
検査 | 費用 |
子宮鏡検査 | 12,000円 |
子宮内フローラ検査 | 44,000円 |
①子宮内膜受容能検査(ERA)②子宮内マイクロバイオーム検査(EMMA)③感染性慢性子宮内膜炎検査(ALICE) | ①:132,000円②+③:63,800円①+②+③:154,000円 |
慢性子宮内膜炎検査(CE) | 20,000円 |
銅・亜鉛検査 | 銅:322円亜鉛:1960円 |
※他院通院中の方は別途料金が発生します
反復着床不全の原因3:受精卵を受け入れる免疫寛容の異常
ヒトの身体は自分自身以外のものが体内に入ると、これを異物として認識し、排除しようとする働きがあります。これを免疫といいます。細菌やウイルスが体内に侵入した際の発熱や、臓器移植による拒絶反応もこの免疫によるものです。
受精卵は半分が男性由来であるため、これを受け入れるには、女性側の免疫が受精卵を攻撃しないようにする免疫寛容が重要です。免疫学的異常としては、ヘルパーT細胞の異常などが考えられます。近年、この免疫寛容が崩れ、拒絶が強く起こってしまうことも反復着床不全の原因の一つと考えられています。
検査
Th1/Th2細胞検査を行います。この検査では、血液検査でTh1とTh2の比率を調べます。
ThとはヘルパーT細胞のことで、獲得免疫はTh1とTh2のバランスで成り立っています。Th1は細菌やウイルスなどの遺物に反応する細胞性免疫、Th2は抗原に反応する液性免疫です。Th1に偏ると炎症や自己免疫反応が起きやすくなり、Th2に偏るとアレルギーが起きやすくなります。正常な妊娠はTh2優位の現象といわれており、Th1/Th2が高い場合は、着床あるいは妊娠継続しにくい可能性があることが指摘されています。
また、ビタミンDの検査も実施します。
ビタミンDの欠乏も反復着床不全と関係しているという報告があります。ビタミンDは免疫寛容に関連するTh2細胞やヘルパーT細胞を調節する制御性T細胞を増やし、一方で免疫拒絶に関連するTh1細胞を抑制することが報告されています。
治療
Th1/Th2のバランスが乱れている場合には、免疫抑制剤の服用を行います。免疫抑制剤であるタクロリムスを服用していただき、血中のTh1値を下げTh1とTh2の比率を調整します。
子宮内での胎児や胎盤に対する拒絶反応を抑制させることで、着床が期待できるようになります。タクロリムスの服用量は検査結果に応じて異なります。
胚移植を行う2日前から1日1回服用していただきます。
ビタミンDが不足していた場合、補充が望まれますが、食事からのみでは困難です。そのため、サプリメントなどで補充を行うことを推奨しています。
検査にかかる費用
Th1/Th2検査とビタミンD検査はどちらも自費検査となります。
検査 | 費用 |
Th1/Th2 | 30,800円 |
ビタミンD | 1,500円 |
当院の反復着床不全の検査・治療について
生殖補助医療(ART)において良好胚を複数回移植しても妊娠しない反復着床不全は、精神的にも金銭的にも負担が大きくなります。
反復着床不全の原因は個人1人ずつで異なります。
そのため当院ではさまざまな検査を取り入れ、その方に応じた検査を提案できるようにしています。
また検査結果だけでなく、その後の治療まで一貫してサポートする体制が整っています。カウンセリングを行い検査の結果をもとに、着床環境の改善やホルモン療法、免疫療法、手術などさまざまなアプローチを組み合わせて治療を行います。